インフレ狂騒曲

最近、金融メディアを見ていても市場の関心はインフレに集中していると感じるのは多くの人が同意するところだろう。個人的には現在の2大リスクとして中国の景気減速とインフレを考えているが、前者はさておき今回は後者について現状考えていることをまとめておきたい。

現在のインフレがいわゆる良いインフレ、デマンドプルではなくコストプッシュであることは既に多くの指摘がありコンセンサスとして良いと思われる。では何故コストが上がっているのか。①サプライチェーンの乱れ ②金融緩和による投機マネーの商品市場への流入による商品資源高 この2点だと考えている。

中銀が「インフレは一時的」と念仏を唱えていたのは主に①を見ていたからであり、その意味では私も同意見だ。一方、②については中銀も市場も過小評価しているように感じられる。

そしてなぜかスルーされていることが多いように思えるが、コロナ禍におけるバラマキにより膨れ上がった各国の債務。二次大戦後並みの米政府債務比率は下図の通りであり、出典の記事にもあるように、これを解決するには事実上インフレしかもはや道がない。あるいは、最近人気のMMT(笑)的な「政府債務の拡大が自国通貨建てである限り問題ない」として放置するしかない。

現在の金利水準は実体経済の面からも低すぎるし、この債務の拡大が通貨、国債の信認をいつ揺らがせてもおかしくないレベルにあるとするならなおさらである。中銀信者の市場参加者にとっては杞憂でしかないのだろうが、大きなパラダイムの転換というのは得てして気づかぬうちにやってくるものだ。

自分も含めて、インフレが悪であり株式のパフォーマンスも悪かった70年代や80年代をリアルタイムで経験している市場参加者はもはや少ない。当時の常識は今のそれとは真逆であったようだ。当時米国では株式の死と呼ばれた。

今の市場参加者にとってインフレとはデマンドプルであり景気拡大に伴う「良いもの」であるという信仰が強いし、さらに言えばインフレ=善、デフレ=悪という固定観念に完全にとらわれているように見える。

もちろん上図の通り当時の金利は2桁でありインフレ率も同様であった。現状とはレベルが文字通り桁違いである。しかし、現状の金利が「フェアバリュー」よりも相当に低いことは多くの人が認めるところであろうし、それは異次元の緩和により無理やりもたらされたものに過ぎない。中銀の麻薬に酔いしれた市場が酔いから目を覚ますとき、下に行き過ぎた金利が逆回転で上に行き過ぎる可能性をなぜ無視できると言うのだろうか。

需要が供給を上回ることで物の価値が上がり相対的に通貨の価値が下がる、需要は伸びないものの供給側のコスト高により物価が上がり相対的に通貨の価値が下がる、これに加えて、そもそも通貨の信認が毀損されることで通貨の価値が下がるということについて、ここまで膨れ上がった債務があるのにしばしば無視されているのはやはり人々が中銀の麻薬に酔いしれているからに他ならないのだろう。しかし、永遠に効き続ける麻薬などない。

名目金利はともかくBEIが過去10年でもそれなりのラインにまで上昇したことにより、今までは「眠れる獅子」であったインフレがようやくお目覚めに見え、さすがにこのまま緩和を続ければ70年代を笑いものにできないのではないかという懸念程度は中銀も考えて然るべきだろう。そもそも金兌換性の廃止から通貨の信認が毀損した当時と、物価を軽視し雇用の拡大を重視してきたコロナ禍以降の中銀の姿勢に通じる部分があると言うのは、例えばSBIのMonthly trend reportにおいて北野氏が何度も解説している通りだと思う。物の価値とは結局は希少価値であり、それは通貨も同じである。発行量に制限がなくなれば、あるいは乱発されれば価値が毀損するのは当たり前のことである。

相場ではよく「逆回転」が見られるが、私は今市場が頼り切っている緩和についても同じことが言える日が来るのではないかと昨年からずっと考えている。金利は既に地を這うようなレベルであり、次に危機が来たとしてももはや米国もマイナス金利に突入せざるを得ないような位置である。そして今までずっと眠りについていたインフレが目覚め出している以上、更なる緩和は火に油を注ぐが如し。そして何より、更なる緩和、バラマキで景気刺激を行うことは既に記録的な規模の債務をさらに拡大させることにほかならず、いよいよ市場がこの債務に目を向けこちらを懸念し始めれば、むしろ緩和やバラマキを行うことそれ自体が逆効果になることになる。

異常なまでの低金利、債務残高、そして逃げ道をふさぎつつあるインフレを見るに、もはや進むも地獄、進まぬも地獄の状態であることは明白に見え、ソフトランディングは事実上不可能に見える。

引き締めを行い債務を減らすために増税を行えば市場はかんしゃくを起こしクラッシュは免れないだろう。一方、このまま緩和の麻薬を打ち続けても、やがて副作用に殺されて同じ結果、いや、むしろよりひどい結果になるようにしか思えない。問題は先送りすればするほど大きくなるのは、世の常である。

MMT(笑)的な理論に従えば、債務の増大など放置で良く、インフレが激しくなれば引き締めればよいという話なのだろうが、これはお粗末な思考実験にすぎないし真面目に検討する価値もないと思う。某中国のような独裁国家ならまだしも、民主主義国家でバラマキ麻薬に慣れた民衆が引き締めを行う政府を支持するだろうか。また、政府がそれを出来るだろうか。票目当てにバラマキ合戦の公約を掲げる日本の各党を見ても末路は目に見えている。

それでも、2桁インフレなど米国はともかく日本では想像もできないと一蹴する人も多いだろう。需要のバックとなる人口が減少に転じているからかつてのようなインフレはあり得ないという意見も一理ある。もっとも、いくら技術革新があっても労働者が減ることで賃金が上昇しコストプッシュとなる側面もあるとは思うが。ただ、多くがモノの需要と供給のバランスにばかり着目し、通貨側の価値の毀損を考えないのは私には極めて不自然に思える。ビットコインが今日も最高値を更新しているが、あれは投機的な個人のセンチメントである一方、既存通貨価値の下落によるインフレヘッジとしての側面が相応にあるように見えるが、だとすれば市場も少しづつ気付き始めているのだろうか?

 

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