TINAが死ぬ時

TINAという言葉がある。There is no alternative、株以外に買うものが無いから株を買うという論理だ。背景は、勿論低金利である。

最近よく聞くから新しい言葉かと思いきや、実は10年ほど前のニュース記事でもよく出てきている。私としたことが、あやうくこの緩和バブルがリーマンショックから始まっていることをすっかり忘れるところであった。

さて、面白い記事を見たので(少し古いが)紹介したい。

この記事の解説では、ITバブル当時は実質金利が4%近くもあったのに今と同じ益利回りまで買われていた。今は実質金利がマイナスだから、もっと買われてよいではないか、という理屈らしい。

或いは逆に、実質金利が4%になるまでは買い進め、という理屈とも取れる。

上のスクリーンショット内の図表2によれば、当時のイールドスプレッド(対実質金利)はゼロ近辺である。今は実質金利はマイナスだから、当時を再現しようと思えばS&P500のPERはテスラ並みどころか赤字でもOKという話になる。

この理屈の感想は人それぞれだろうが、異常なものを正当化するときにより異常なものを引っ張ってくる論理には、私はあまり感心しない。日本株でも、日経バブル時のバリュエーションは今の4倍以上もあったとして「比べ物にならない」とするような論があるが、こういった論理に従えばバブルは繰り返されるたびに大きくならないといけないし暴落も然りとなる。

そしてそもそも、ITバブル期の買いは今のような実質金利を横目に見ながらの消極的な買いだったのだろうか?まさしくネット黎明期で多くの期待が(過剰とはいえ)存在していた、積極的な買いではなかったのか。

それに比べて今のコロナバブルにおいて、ESG(笑)やら脱炭素やらはたまた半導体やらに、私たちは本心から熱狂しているのだろうか?パソコンやネットの登場と、それらは比較できるほどのものなのだろうか?スマホが登場した時代ですら、こんなバブルは無かったはずだ。

積極的な買いと消極的な買い、パラダイムが違う時代を比べて、そこに意味はあるのだろうか?

私は水物であるPERやその逆数を用いて債券との比較を行うこと自体あまり適切であるとは思っていないのだが、そもそも実質金利がマイナスで常態化していること自体が異常であり、この異常を前提としている以上、実質金利がプラス圏に浮上しただけでも相当なインパクトはあるだろう。ちなみに、図で見ての通りリーマンショックやコロナショック時を見ても、当時のイールドスプレッドはITバブル期には遥かに及ばず大きかったが、それでも十分暴落した。

あちこちでインフレと騒がれ、リスク資産を持たないと目減りするのではないかという焦りが、従来の低金利によるTINAにさらなる力を与えている。一方で注意しなければならないのは、現在のインフレを例えば2000年代前半のような新興国の成長に支えられたディマンドプルのインフレと混同するようなことだと思う。現在のインフレがコストプッシュによるものであるなら、それは70-80年代に近く、当時の株式リターンは冴えないものであったことは言うまでもない。株式がインフレに強い必要条件として、①そのインフレがディマンドプルによる良いインフレで企業収益を向上させるものであること ②資産バブルなどにより既に価格が吊り上がっていないこと の2つがあると思うが、皮肉にも現状はそのどちらも満たしていないように見える。

とりわけデフレ圧力の強い日本で暮らし続けるのなら、しかも何十億も資産を持っているのならまだしも、そうでないのなら、年にたとえ1,2%目減りしたところで今は現金で持っておくほうが、今後2割3割(これでも控えめに言っているのだが)下がったときにダメージを喰らわずに買い出動できるし、高値で掴んでいるインフレ恐怖症の人たちを一気に逆転出来るのではないだろうか。少なくとも自分はそう考え、そうしている。

TINAが死ぬ時は、いつ来るのだろうか。

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