中銀が財政出動、現金のバラマキというパンドラの箱を開けてしまったがためにインフレという魔物がとうとう世に放たれてしまった。この状況下において、2つのシナリオがあると思う。
一つには、インフレを抑えるために中銀及び政府が利上げや増税を行い、引き締めを行うというもの。
このパターンであれば私はインフレはすぐに収まると思っている。なぜなら、今回のインフレの根源はサプライチェーンの混乱などではなく、そもそもが中銀の緩和であると考えているからだ。考えても見ればよい。例えば供給が混乱しているのは分かっているのに反動消費を極端にしたのは何か?「働いたら負け」をリアルにしたのは何か?全て現金のバラマキである。もちろん供給制約も一定部分の要因ではあるが、市場参加者が(中銀のいうことを愚直に信じて)妄信しているほど大きな要因ではないと思うし、供給制約の背後にもバラマキがあることは例えば労働者不足を見ても明白だ。
だから中銀や政府が引き締めに動けば今回のインフレはあっけなく終わると思うし、そうなればデフレ的なクラッシュになるのでいつも通り現金に逃避すればよいだろう。
一方で、先の米英中銀の態度を見ていても、私にはこの引き締めシナリオが早々に来るとは思わない。なぜなら、背後に巨大な債務がある以上、再度デフレに陥れば困るのは各国政府自身だからである。民衆が持続するインフレに声を上げ、耐えられなくなる限界まで中銀はインフレを放置、いや、育みたいと思っているに違いない。それには現状のインフレはまだ程度においても時間においても不足しているように見える。また、仮に引き締めに転じたとしてもダウが1割も下げれば早々に緩和に逆戻りするだろう。2018年末のあの程度の下げでもパウエルはビビってしまった小さな男である。今度は12か月MAタッチですら耐えられないだろう。そうなればクラッシュというのも憚られる下髭に終わり、またインフレが進むのは目に見えている。
となると2つ目のシナリオ、このままインフレが(相当程度まで)進み続けるということになる。
高インフレ下において株式がクラッシュするのは一見困難に見える。スタグフレーションによる株式売りは合理性があるもののとりわけ今のような実質金利では株式を売ったところで資金の持って行き場がない。
一方で、現在は株式と債券がともに買われている異常事態であり、逆回転が起こるとすれば両方が同時に売られることは十分に考えられる。その際、クラッシュとともに実質金利の上昇を実現することになるだろう。
この形でのクラッシュは、インフレに、そして巨大な債務に対処しない中銀への不信任という形になるだろうから、債券が売られるのは当然だが、一方で、では現金に逃避できるかと言われれば、そもそも高インフレ、中銀への不信任というバックグラウンドにおいて(一過性の逃避はあれど)現金需要が継続するのか疑問が残る。
普通で考えればゴールドやコモディティへの資金流入を考えるだろうし、その延長線上に仮想通貨、いや暗号資産があるのではないだろうか。とりわけ暗号資産については今はその上昇背景が単なる投機なのかインフレヘッジなのか分からない。今後株式や債券が死んだときに暗号資産が生き残ればそれはホンモノということになるのだろう。
とはいえ個人的にはキャッシュを生み出さないコモディティ系に多くを振り分けることはあまり気が進まず、かといって現金についても2つ目のシナリオ下においては同様である。
となるとコモディティにある程度準じる資源株、さらに範囲を広げればバリュー株というものが逃避先として考えられてもおかしくは無いように思える。


上図はTOPIXバリュー株指数とグロース株指数の過去25年チャートであるが、確かにバリューも指数としては過去のレンジ上限にあるのは確かであり普通ならばこの位置で買うのは不適当に思える。
一方で見方を変えるとリーマンショック前のバリューバブルのピークには未だ及んでおらず、本来BPSの積み重ねがある中でこの位置に留まっているのは相対的にグロースへの偏った資金流入が続いてきた背景があろう。
以前から何度も書いているが、バリューとグロースの乖離は相当なレベルに達しており、このパターンはITバブル時を連想させる。当時は指数が上げ続ける中大底を付けたバリュー株がいくつもあり、それは指数が反落していくなかで逆行高を演じた。食品、電鉄、重工など非ITとして資金が入らなかった銘柄にいくつも見られる。
現金も債券も逃避先として不適当な状況下においては、相当に割安放置されたバリュー株に資金が流入することは全くあり得ない話ではないと思う。もちろん、それでもおそらく一過性の流動性危機はあるだろうから現金が活きる場面はあるだろう。ただ、それは今まで以上に短い可能性があると思う。二番底や三番底は、過去の概念になるかもしれない。
バリュー株はほぼシクリカルであり、シクリカルは景気連動性が高いがゆえに仮に高インフレでスタグフレーションになるならシクリカルが買われる理由はないという考えもあろうが、悪性インフレ下においてとりわけ資源株は準コモディティとしての性格を強めるのではないだろうか。多くのバリュー株も保有資産で価値を見られるがゆえに同様のトレンドとなってもおかしくないと思う。
個人的には中銀が引き締めに動いてデフレ的クラッシュにつながるいつものパターンが最も分かりやすく希望コースではあるものの、昨今の状況を鑑みるとインフレクラッシュコースも考えなくてはいけないと思うし、そうなるとオールキャッシュで待つのもややリスキーかという思いもある。幸か不幸か足元再度バリューの下げが激しく、ここからさらに一段下げるのならば幾らか足すのも合理的に見える。
なお、話はあくまで日本株の話でバブルど真ん中の米株はシクリカル含め高すぎるので論外と感じている。