既に決算から時間がたってしまったので今さら記事にしてもとは思うが、自身の備忘録もかねて一応帝人の決算について書いておきたい。

帝人<3401>が11月8日に発表した2022年3月期中間決算の経常損益は32,621百万円、直近のIFISコンセンサス(33,533百万円)を2.7%下回る水準だった。また同日発表された業績予想によると通期の経常損益は前回予想を据え置き、11.8%増益の60,000百万円を予想、IFISコンセンサスを2.9%下回る水準となっている。

結論から言うとコンセンサスを下回り株価もコロナ安値付近まで落ちている。ここの事業は大きく3つに分けられ、①マテリアル(自動車や航空機向け素材など)②繊維(衣料など)③ヘルスケア(医薬品及び医療機器)である。これに加えて、ITセグメントもあるが、子会社の持ち分が多いせいかあまり扱いは大きくない。そして営業利益面で見れば実質的には①と③が多くを占めているのが実情である。

ここは会社の決算説明資料が詳しく良くできているのでそれを見たら全てわかるのだが、至極簡潔に振り返ると、昨年の上半期はコロナの医療用ガウン特需で繊維が大きく伸びた一方、マテリアルは当然のごとく赤字であった。

今年の上半期の営業利益は、繊維は特需剥落でがた落ち(とはいえコロナ前=2019年水準に戻っただけ)、マテリアルは黒字ではあるものの1Qから比べ2Qは原材料高で減速し、コロナ前水準の3分の1ほど、結局支えたのはヘルスケア、ここの収益の柱であるフェブリクであった。(ヘルスケアはコロナ前水準比でも20%UP)

マテリアルについては①原材料高②半導体不足による自動車需要減③航空機需要減が減益の主な要因とされ、①については価格転嫁を進めてはいるものの今後の資源高がどこまで進むか次第だろう。②や③はコロナが収まる中で回復が見込まれるが一方でシクリカルの特性からその頃には景気後退、なんて展開も十分あり得る。

元々帝人はリーマンショック後にも大赤字でBPSを毀損し、昨年も減損で最終赤字を出すなどいわば典型的なシクリカルで、その原因は殆どがマテリアルと繊維である。このセグメントはヘルスケアに比べて売上高は大きいが利益率が悪くしかも景気連動なので定期的に赤字や減損という話になる。

リーマンショック時に比べ今の帝人は利益面では半分以上がヘルスケアによるものであり、そういう意味では当時とは違うのも事実だ。特に今年の見通しでは通期600億の営業利益予想だが、7割の420億がヘルスケアセグメントでありほとんど医薬品株状態になっている。

マテリアルについてはセグメント利益がやや下方修正されており、それを好調なヘルスケアで補う形で通期予想変更なしとなっている。

今回好調な薬は従来からの柱であるフェブリク、そして武田から譲り受けた糖尿病薬だという。

ただいずれも問題があり、フェブリクについては来年パテントクリフを控えており190億ほど減益になる見通しとの記事もある。武田の糖尿病薬は決算資料によると今年の上期だけで145億売り上げ、通期では300億程度の売り上げ予想のようだが、減価償却費も年間で153億増を見込んでおりEVITDAの押し上げは大きいものの営業利益面ではフェブリククリフをカバーしきれるほどではないように見えるし、2025年以降市場縮小が見込まれると言われるこの糖尿病薬の買い物は安かったのか高かったのか評価が分かれるところだろう。

また、医療機器や機能性食品などでカバーするという話もあるが、いずれも現状では大きな利益を出せているとはいえず未知数と言わざるを得ない。間違いなく来るフェブリクのパテントクリフに対する不安を払しょくするほどのものではないだろう。

また今回の武田から糖尿病薬を譲り受けたことで負債が増え自己資本比率も(元々高くなかったのに)低下し36%程度となっている。DEレシオも1をやや上回った。のれんに類する無形固定資産が大幅に増え、基本的に財務優良の銘柄ばかり買っている私からするとイマイチに感じるバランスシートである。

加えてここはマテリアル部門の米国子会社の減損リスクもある。質疑応答集で会社側は「現時点では」否定しているが、結局のところ景気が悪くなればこの部門は簡単に赤字になり減損という流れは想像がつく。

まとめると、来年以降フェブリクのパテントクリフによりヘルスケアの利益が落ちる中、仮に景気後退となりマテリアルも赤字化するとトータルでも大打撃となる、そして財務はあまり良くはない、ということだ。

まあそうでもなければ指数採用の01銘柄がコロナ安値まで売り込まれることはない。上記をすべて織り込んで今の株価があると思ったほうが良い。ただここは今年のMSCIの除外による需給面での変化もあったとは思うが。

加えて、ここのコロナ安値は他のシクリカルに比べてやや下げ方が緩かったと思う。それは医薬品を扱うディフェンシブ性と、繊維のコロナ特需があったからなのだろう。だからコロナ安値まで下がっているとは言っても、そのコロナ安値がやや甘かった可能性も高い。

株価指標面では現在PBR0.66で、コロナ安値時は0.69なのでPBR視点ではコロナ安値を既に割っている。過去10年の最低PBRは2013年3月期、赤字時のPBR0.57だが、実はリーマンショック時はそれよりはるかに下げている。当時はBPS2000円付近で今と変わらない中1番底で1100円付近、大底で830円まで下げた。大赤字によるBPS毀損を先回りしたものと考えられ、ヘルスケア偏重の現在とは事情は異なるとはいえ実際に大きなクラッシュが起こればおそらくチャート的にも1200付近、あるいは1000円の攻防は覚悟すべきではないかと思う。

一方、月足では今年2月から一貫して下げ続けており時間軸的にもリバウンドがあってしかるべきであり、その場合2018年を頂点とする下降トレンドライン継続としても1800台程度までは反発の余地はありそうだし、月足レンジ移行ならば2000円を再度狙う形になろう。

東レがカーボンに集中しそれなりに結果を出している中、ここはマテリアルやらヘルスケアやら色々手を出すがなかなか大成していない印象があるものの、既にここまでヘルスケアに傾倒しているならいっそ薬品、医療機器に集中して景気敏感なセグメントは切ったほうが良いのではと個人的には感じる。薬品については自社開発が少なくまともに当たったのはフェブリク位だとか導入ばかりだとか批判もあるが、そもそもこの規模の国内ですら中堅の薬品メーカーが新薬開発でメガファーマに勝てるわけがなく、導入は導入でも良いのではないだろうか。あとはここの特色である医療機器やらを混ぜ込みながら、将来的には医薬品銘柄として生まれ変わるのが得策ではないかと感じる。

 

 

 

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