日本株は割安なのか

日本株は割安とよく言われる。何をもって割安というのかという問題はあるが、おおよそ、①過去比較 ②他国との比較 ③債券利回りとの比較 といったところになろう。

とりあえず、①から話を進めたい。

まずはリーマンショック以降の日経平均のPBR、PER水準であるが、上図の通りPBRはおおよそ0.9~1.4台、PERはシクリカルなのであまり意味はないが平時では10台半ば、好況期で10台前半、不況期で20~30台あるいはそれ以上となっている。

足元の日経PBRは1.3、PERは14程度である。なおこのPBRについては、加重平均となっており指数ベースに直すとPBRは2近い。参照:https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/archives/data?list=pbr

日経平均株価は加重平均ではないのにPBRを語るときだけ時価総額が大きなバリュー株の影響が大きくなる加重平均を使うのはおかしいとの指摘がしばしばなされているが、それ自体はもっともであるとはいえ過去この加重平均PBR0.8水準でリーマンショック、コロナショックは切り返したということを考えれば、指標の連続性を考えると理屈はともかくこの加重平均PBRはそれなりの意義があるのではないかと思う。

ちなみにリーマンショック前のバリューバブル時代には、上図の通り加重平均も指数ベースも大差なくPBR2を上回る程度であった。リーマンショック以降のグロース相場が値がさ株に偏った日経を創り出し、結果として現在のように加重平均と指数ベースの乖離を産んでいると考えられる。ざっくり言えば、加重平均PBRはバリュー株の、指数ベースのPBRは値がさやグロースのそれと考えればよいと思う。

さて、リーマンショック前のPBR水準については既に上にもあるが2を超えるレベルであった。TOPIXのデータでも下図(出典:https://finance-gfp.com/?p=6403)の通りであり、当時がバリュー優位のプチバブルであったことが伺える。これから考えれば、アベノミクス相場などというのはせいぜいがPBR1.4~1.5程度にしかならなかったわけで、特にバリュー系にとってはそこまで大した相場ではなかったともいえる。実際個別を見てもバリュー株の相当数が89年のバブル期に次ぐ高値をつけているのは2006~2007年辺りが多く、リーマンショック後の高値に多い2018年水準などは当時に及んでいないものが多い。その最たるものは当然ながら金融株である。

さて、最近の相場がよく似ているITバブル期の日本株の水準はというと、おおよそリーマン前のバリューバブル期に近くPBR2台程度であったとみられる。使っているデータが日経やTOPIXや加重平均や指数ベースやという違いはあろうが、下記のいくつかのデータを見てもおよそその程度の水準であったと思われる。(なお、下記の図の「現在」とは古い記事の引用の為2015年辺りのデータであることに留意されたい)

実際問題、現在の日本株のPBR、特にバリュー株のPBRというのはITバブル崩壊後の大底である2003年辺りの水準と大差はない。リーマンショックの前と後では日本株のPBR水準はまるで変っている。かつては1台前半で大底であったが、リーマンショック後は民主党政権時代に恒常的にPBR1割れを経る等水準感が異なっており、コロナショック時も1割れとなった。おそらく現代の多くの人のコンセンサスはPBR0.8程度が大底という感覚だろう。

なぜ日本株の指標面での水準がここまで切り下がってしまったのか。いくつか理由は考えられる。

まずは、切り下がったのではなく元々が異常だったという考え方。

この点については先の出典記事の解説が詳しい。元々米株などはPER15~20程度が標準的だったのに対し日本株は90~00年代までPERは20~30程度などと高めでPBRもバブル期の5台から下がりゆく中ではあったがそれでもかなり割高であった。これが持ち合い解消などで改善されリーマンショック後のレンジ水準がむしろ適正であるという説。PER面については内需中心で比較的安定している米株の平常時と比べてもかつての日本株の水準は高かったわけで、この考え方は合理性があると思う。

次に、特にPBRについて、日本企業の財務体質の改善が(やや過剰なまでに)進んだ結果という考え方。

例えば上図を見ても日本企業の有利子負債比率はバブル崩壊後格段に減少しており財務が改善している。日本企業はもともと財務が悪い企業が多かった中バブル崩壊の教訓を経て地道に財務体質を改善してきたと考えられる。当然純資産が積み上がっていくので株価の上昇が緩いと相対的にPBRは下がっていく。ただ日本企業の現状の好財務は世界的に見ればかなり異質であり、成長性が無いから貯めこんでいるだけとも揶揄される。

上図は各国の自己資本比率の比較(出典:https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sustainable_kigyo/pdf/001_05_00.pdf)であるが、特にリーマンショック後の財務改善、財務レバレッジの低下がみられる。

ROEが高いと高PBRが許容されるため、単純にPBRだけを見て高低の評価はできない。一方、ROEはレバレッジを効かせればいくらでも上げられるため、ROAでの評価も重要である。以下は各国のROE、ROAの比較である。

そして各国のPBR比較が下図である。

ここでROE、ROAを考慮した上でPBR面から ②他国比較 をするならば、既にコロナショック前からバブル化していた米国は別として、欧州との比較では少なくともリーマンショック後はやや割安といった程度かと思う。リーマンショック後の低金利によるレバレッジかけ放題の環境、ROE重視、グロース優位の相場自体が日本株に不利に働いているのは言うまでもない。

あとは③債券利回りとの比較だが、この低金利で語るまでもない。上図はややデータが古いが配当利回りとの比較。

さて、まとめると、

・日本株はシクリカルなのでPERよりもPBRで判断すべきと思われるが、足元の日経PBR1.3はリーマンショック後ではやや割高圏であるものの十分レンジ内である

・日本株の00年代前半までの株価指標はバブル期からの異常な水準を引き摺ったものであり他国の平常時の株価指標と比較してもあまり参考にすべきものではない

→①過去比較としてはやや割高

・日本株は財務体質の過剰なまでの改善により特にPBR面で他国に比べ割安になっているが、リーマンショック後の低金利下のグロース優位相場で余計に過小評価されている側面がある。仮に今後金利上昇や債務リスクが意識されるような相場環境になれば、好財務の日本企業への見方は変わり得るだろう。また、日本が人口減の衰退国家であり市場縮小することから成長性でディスカウントすべきとの意見もあるが、日本株の多くを占める輸出製造業の海外売上比率は上昇しており、指摘は当たらないと考える。例えば2001年に日経外需株 50 の構成銘柄の海外売上高比率は平均値が 53.4%であったのに対し18 年では 73.9%に 高まっている。

→②他国比較では割安

・債券との比較では話にならないがこれは債券が異常なだけである

→③債券利回り比較では割安

結局玉虫色の結果のような形になってしまった。加えて、現在の日経BPSについては株高自身が嵩上げしているという点を忘れてはならない。即ち、時価評価される有価証券は株高により評価額が上がり、BPSを押し上げる。これによりPBRが下がり一見割安になるが、これは「まぼろし~」であり株価が暴落するとBPSは減少する。個別企業の決算を見ていても、EPS以上にBPSが増えている企業などがチラホラあり、不思議に思っていたが、「時価の算定に関する会計基準の導入」というものにより最近特に有価証券の時価評価が進んでいるのも背景にあるようだ。

これがどの程度日経のBPSを押し上げ=PBRを押し下げしているのか、不勉強故詳しくは分からないが、そもそもシクリカル中心の日本株は一旦不況になれば赤字でBPS毀損は過去の金融危機時にも見られたことなのでPBRといえどもあまり過信しないほうが良い。1割2割のブレは考えておくべきだろう。

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