
SP500は週足陰線で終えた。
今週、日経はワクチン相場時の24000台半ばの週足窓埋めを目前にし欧州株の大反発により寸止めで反発したものの、昨日はその反発分の半分を帳消しにした。時間外ではプーチン発言による噴き上げもあったが結局は一過性に終わり、足元先物はトントン圏に戻っている。
ついこの間まで2018年10~12月とのチャートが似ていると話題になっていたが、当時ならここでもう一度週足MAまでの反発があったが今回は今のところないままである。
そして前回の記事でも触れたが、今度は資源価格高騰により2008年相場との類似を指摘する声が多くなっている。
相場は韻を踏む、とよく言われるし、人間の心理というのはそうそう変わるものでもないので相場を心理学と見るならばチャートの過去比較は重要な意味を持つ。
一方で、様々な社会背景やパラダイムといった要素は、常に変容し続けているのであって過去と全く同じという場面はおそらく一度もない。物事の大きな背景が変わっているのに、その背景を無視して都合よく類似性だけを切り取る見方は、単純にミスリーディングでしかない。
さて、足元の状況を整理してみる。
問題の本質は常に「超緩和」であって、この後始末をどうするのかということでしかない。
ここからウクライナ危機が去ろうとも、インフレが収まるわけではない。そもそもウクライナ危機の前から記録的なインフレだったことをいくらなんでも皆まだ覚えているはずだ。にもかかわらずバイデンはインフレをプーチンのせいにしようとしている。どんなに頭の弱い米国人でもさすがに騙される人はいないはずだ。
一時は50bps利上げも織り込んでいた中、結局FRBは25bps利上げを示唆し商品市場はその日から暴走した。
商品市場は中銀の喉元にナイフを突きつけたといってよく、仮にもここから再緩和しようものなら資源高の暴走はいよいよ止まらなくなるだろう。
中銀が今後、
①引き締めを続ける→株式の(最低でも)中規模調整は不可避
②再緩和→インフレ暴走→企業業績悪化→70-80年代パターン(スタグフレーション)
どちらになっても殆どのセクターはアウトという結論になる。辛うじて資源株は②パターンで生き残るだろう。
しかし、この噴き上げた資源価格の状態で資源株に買いを入れることはおそらくレバナスを買っていたような人しかできないだろうから、逆張り派、バリュー派の人間にとっては①パターンで調整が入ったときに②パターンに再度戻ることを見越して資源株を買うしかないだろう。私自身、中規模調整が来た場合は一定程度の資源株は買おうと思っている。
ところで、現在の状況は
・ディマンドプルではなくコストプッシュ型のインフレであること
・歴史的な低金利状態であること
・インデックスファンドの台頭
・これにプラスして脱炭素やウクライナ危機など実需面でもエネルギー需給のひっ迫があること
等の点において、例えばITバブル期やリーマン危機前、あるいは18年末などとバックグラウンドが大きく異なっている。
グロースバブルという点でコロナバブルはITバブルと類似点があり、私自身バリューの逆行高の可能性を考えてきた。
実際、足元で指数の下げに耐えている食品株などは昨年11~12月安値を割っていない。今のところ、ITバブル期と同じパターンとなっている。
一方で当時とは金利やインフレの状況が全く違う。更に当時に比べ格段にクラッシュが短期間・急峻化し、いわゆる流動性危機のような形で調整を迎えることが多くそのような場合は指数先導でセクター関係なく売り込まれるのが常である。この辺りはインデックスETFの普及やアルゴ取引の進歩なども関係していようが、一方で低金利、実質金利の低さにより長期下落トレンドそのものが維持しにくいというここ10年ほどの背景もあったと思われる。
しかしその低金利自体も限界まで来ているように見え、ここからも低金利が維持できるかは分からない。
米株信奉者は過去数十年の右肩上がりをバイブルにしているが、一貫して下がり続けてきた金利がその隠れた背景であった場合、これが反転した先に待っているのはその裏返しかもしれないことにどれだけの人が留意しているだろうか。
要は一部だけを切り取って過去比較をしたところで第三の要因が変化すれば全てひっくり返されることもあるし、様々なファクターをすべてそろえて見てみれば「似たように見える」局面にも少なからざる「異なった」要因が見えてくる。リーマンショック前はバリューバブルだったのに対し現在はグロースバブルである。18年はこんなコストプッシュインフレは無かった。これだけでも大きな違いがあって同じように物事が運ぶとは思えないのだが、メディアはその類似性を書き立てる。これには惑わされないように自戒も込めて注意したい。
なお、過去比較に全く意味がないと言っているわけではない。ただ、異なる背景を鑑みれば、単一の過去比較よりも複数を組み合わせた過去比較、例えば、現況であればグロースバブルという点からのITバブル期、資源高からのリーマン危機前、コストプッシュインフレという点からの70~80年代など、複数の過去の事例を組み合わせからの比較のほうがより適切であろうと考える。