日本株割安論は大緩和時代の円安による幻ではないのか

自国の中銀トップ公認の通貨売りにより、名目株価としての日経はここ最近特に強い状況が続いている。

欧米の株価指数が三月安値を割れたりタッチしたりといった状況の中、日経の円建ては3月安値24000台に遥か及ばない。

一方、ドル建てでは既に割れておりそれは上図の通りだ。ドル建て日経のチャートは欧米株と大差ない。巷で言われている「強い日本株」は単純に円が下がっているだけの数字のマジックである。

さて、上の2つの図を見比べて頂きたい。2000年代、特にリーマンショック以降の部分、左の実質実効為替レートと右の日経平均を上下反転したもの、ほとんど同じ動きになっていることが分かるだろう。

ご存知の通り日経やTOPIXは輸出系製造業の比率が高く、実質的にはシクリカルの平均といってよい。つまり為替が円安に振れたことによりこれらの企業の業績が向上し株価指数が上がっているに過ぎないということが分かる。

既に指摘されている通り、日本の輸出系企業の輸出数量はアベノミクス円安以降もほとんど増えていない。つまりドル建てでは無成長に等しいのだが、円安効果による数字のマジックで円建ての売り上げが増加しているだけである。

また、特に00年代以降企業は海外進出を進め資産を海外に保有している割合が多くなっている。以前の記事にも書いたがこれは

為替換算調整勘定により円安に振れると企業の純資産を数字上押し上げる。

コロナ前の2019年夏、日経は2万円でPBR1でこの攻防があったことは記憶に新しい。その後わずか3年ほどで日経のBPSは23000円付近にまで増加している。素直に見れば日本企業の稼ぐ力は素晴らしいと言いたいところだが、円安と有価証券の株高効果がかなり押し上げていることは想像に難くない。

そしてそれは何もここ1,2年で始まったことではない。リーマンショック以降の「大緩和時代」を通じて見られたことであり、日経のBPSがここ10年で倍以上になっているというのは円安と株高の押し上げ効果をかなりディスカウントして考えなければならないだろう。

本来なら日経採用銘柄の為替換算調整勘定や投資有価証券による純資産増加分を全て検証すれば今の純資産のどの程度がまぼろし~なのか分かるのだろうが、そこまで暇でもないし根気もないので誰かお願いしたいところだ。

さて、再度上図の実質実効為替レートを見てもわかるが、実は民主党時代の円高というのもこれで見ると90年代と比べればそこまでのレベルではない。足元歴史的な円安であることを考えると強烈な逆回転が起き90年代のような実質実効為替レートになれば、日経自体も相当な調整を強いられておかしくないし、頻繁に喧伝される「日本株は割安」という根拠も揺らぐ可能性は十分にある。

円高になればシクリカルは赤字になりBPSを毀損するのは言うまでもないが、それだけでなく先述の通り為替換算と有価証券の下落により純資産そのものが勝手に減少しBPSが減ることになる。有名なのは自動車メーカーなどで海外に工場が多いところはリーマン後の円高でBPSが半分以下にもなったところもある。

そしてここ10年ほどは総じて円安であったわけだが、この期間に海外投資を多くしてきたところは円高に振れると為替だけでも相当なマイナスになるのは想像に難くない。好況期の過剰投資は日本企業の十八番で、これはニアリーイコール高値掴みに他ならない。

日本のシクリカルは低PBRが多く割安とされそれは指数に対しても言われることだが、元々シクリカルは有形資産が多いのと不況時には容易に赤字になるので低PBRが標準であるのは周知のとおりであるが、それ以外にも日本のシクリカルについては為替頼みであり続けてきた(少なくともリーマン後は)ということも低PBR常態化の一因ではないだろうか。

世界的なインフレにより、簿価の純資産に対し実質的な時価は上がっておりむしろBPSは数字以上に上昇しているという見方もある。これはもっともではあるが、前提条件としてこのインフレが持続するということと日本については特にこの歴史的な円安が持続ないしさらに加速するということが挙げられよう。

無論、主要先進国の中でも突出して対GDP比政府債務の大きな日本の通貨がそもそも今まで買われすぎであったという見方もできる。1ドル500円、1000円になれば日経30万も夢ではなかろう。そういった可能性に賭けるのであれば何もいうことはないが、これも以前述べた通りコロナバラマキによってそもそも既に主要国の通貨はどこも目糞鼻糞のファンダメンタルズであり、ドルもユーロも本来大概なものである。

そういった中で円だけがゴミと化しドルやユーロは無傷というのは個人的には考えにくく、考えるのならば円もドルもユーロもゴミになるか、全てゴミ化を免れるかのどちらかであるのではないか。

であるならば少なくとも為替に関してはいずれは逆回転が起きると考えるのが自然であり、海外資産や海外売り上げの多さを買い要因としているシクリカル一般については持続性に疑問が生じる。

全ての通貨がゴミになりインフレが高止まりする想定であれば、今まで過小評価されていた円建て資産・売上中心の内需系に再評価の余地が大きいということになろう。

とはいえ繰り返すが自国の中銀によって殺された通貨を誰が買うのかという状況が現状である以上、当面は逆回転を見込みにくいのも事実であり、噴き上がるミーム株を買うかごときシクリカル買いトレードに乗らなければ当面の利益は見込めないのだろう。

私自身はそのようなトレードはしたくないので、冬眠するしかないと思っている。

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